逃避行

映画・小説・舞台・音楽

中学生の時に『かがみの孤城』に出会っていれば。(一部ネタバレを含む)

最近、かがみの孤城の文庫本が発売された。

 

積読本がたくさんまだある中でやっぱり早く読みたい、と他の順番待ちしている本をすっ飛ばしてこれを読むことにし、つい先日読了。これから感想を述べてみたいと思う。

前置きをしておくと、語彙力と書評力は虚しくも低く、ただつらつらと思ったことを話すスタイルで書いていくので、了承しておいてほしい。こんな読み方があるんだな〜ぐらい軽く読んでもらえるといいな。

 

非常にエンターテインメント性の高いファンタジー要素満載な作品。

読書に不慣れな人でもものすごく読みやすくなっているので、もし学校で半ば強制的な”読書タイム”のある学生がいるのなら、是非この本を手に取ってほしい。

 

ただエンターテインメント性があるだけではなく、中学生の時に出会えていたらと思うくらい(無論この作品が発表されたのは既に自身が高校を卒業した後なのだが)、心理描写が中学生の時の私のようだった。多分同じ人も少なくないと思っているので、学生で読みたい本がわからない人がいるなら勧めたい作品。もちろん、大人が読んでも楽しめる作品でもある。

 

(注意:以下、ネタバレを含む)

 

 

 

 

 

 

 

 一番好きなシーン

やっぱり一番好きなシーンはリオンが最後”オオカミさま”をお姉ちゃんと呼んで会話する場面。亡くなってしまったお姉ちゃんは最後の一年、城の中で中学生のリオンと過ごす時間があって、亡くなる直前にリオンに対して発した遺言のような言葉、”怖がらせちゃって、ごめんね。だけど、楽しかった”(下P.248)が中学生のリオンに対しての言葉だったことがわかる時、優しさに胸がフワッとなったと同時にギュッと切なくなった。本当のさようならなのだと突きつけられる感じ。

もう会えないと思っていた大事な姉が目の前にいるけど別れなければならない悲しさ。でもちゃんと城で楽しめていた、リオンと時間を過ごせていたという微笑ましさ。過去と現在が同じ場所にあることがこんなにも人を感傷的にさせるとは。驚きとともに、一番温かくも切ないシーンだと感じた。

 

好きなセリフ

「…ーこれまで充分闘ってきたように見えるし、今も、がんばって闘ってるように見えるよ」(上P.295)

喜多嶋先生がこころに言った言葉。一番印象に残っていて、一番響いた言葉。自分がしていることは正しいと自分の中で思っていても、周りからしたらわかってもらえないだろうなと自分で感じてしまう環境・状況であって、段々と自分のしていることに対して大丈夫なのか不安になったりする。そこでこのこころの核心をつく言葉はそりゃもう、響くよね。自分の感情・行為を認めてもらえた、わかってもらえたって感じられることに安心できるし、どれだけ「どうせ大人だし仕事だし…」と思っていても、ちゃんと寄り添って考えてくれていると感じることが本当にどれだけ大切なことか、改めて思い出した。一人だけでいい、中学時代の私の周りにこんな大人がいてほしかった。

 

こころに関する好きな描写

読んでいくうち、こころと私にいくつかの共通点を発見した。(特に前半)

 

主婦の人が街角でインタビューされていて「子供が学校に行ってる間に」と何気にひと言告げるだけで、学校に行けていない自分はダメなやつだと非難されている気持ちになる(上P.28)

 ↑:少し後ろめたく思っていることがあると、そのことだけが脳内を支配していて、関係する事柄にものすごく敏感になってしまうことに覚えがある。あくまで私の読み取り方でしかないんだけど、こころはずっとモヤモヤしていたのではないかなと思う。あー、なんで私はこうなんだろう。どうして。って。

 

だけど、言えない。(上P.148)

↑:アキとフウカが盛り上がっていて、こころがそこに入っていけない、そこにあるお菓子が欲しいと言えないという場面。その気持ちがすごくわかる。多分二人とも、こころが輪に入ってきても、もちろん!っていうだろうし、二人がこころに気づいたら、おいでよ!っていうと思う。第三者からみればわかることでも、当人からしてみれば判断がつかなくなる。怖さや恐れが大きすぎて。自分が仲間はずれのような存在だと思ってしまう、本当にそうだったら怖いから、逃げる。

 

…誰かが新しいことを始めようとしている、と思うと、どうしようもなく焦りが胸を押す。(下P.133)

これから自分がどうなるか、いつまでこのままかわからないのに、前に進んでいる人を見ると、ただそれだけで無性に胸が苦しくなる。(下P.139)

 

↑:これは私に覚えのある感情なので、印象深い心情。 特に高校時代に思っていた。周りには似た感じの人というか似たような考え方の人が多く、自分は周りと溶け込めていて、周りも同じだと思い込んでいた。だけど、自分の知らないうちに新しいこと始めたり、先に進んだことをしている人をみては、落ち込んだり焦ったりしていた。自分は足踏みしているだけなんじゃないか、現状維持なんじゃないかって。こころと状況が違うとはいえ、この感情は大学生の今でも時たま感じる。

 

朝ごはんに毎日食べているヨーグルトの賞味期限でさえ、もう、この期限の頃には何かを決めていなければならないのだ、… (下P.155)

↑:心情というよりかはこういうこと私もあるなと感じた一文。例えば、プレゼンがある日が近づいてくると、ある日付を見て、「あの日付の日にはもうプレゼン終わって結果が出てるんだ」とか前日に時間見て「明日のこの時間にはもう始まってるんだ」とか思ったりする。この文でこころに親近感が勝手に湧いてきた。ちょっと意味合いが違うかもしれないけど。

 

仕事だから。(上P.374)

↑:伊田先生に対するこころの感情で、こころを最初から呼び捨てで呼んでいたことに対して嬉しかったけれど、それは多分嬉しくさせたいからそうしたんだと思ってしまうと心の中で吐露しているところ。その後に伊田先生に対する不信感を募らせている、この場面。心理的ブレーキをかけているように私には感じた。素直に嬉しく思えられればいいけれど、単純に嬉しくいられない自分に保守的な感じ。似てるって思った。

こころは伊田先生が真田サイドであり自身が悪者のような存在であると感じている。手紙の件もあり、読者としてこころの気持ちを知っていれば伊田先生が悪いように見えてくるけれど、完全にこころの味方になれるかと言われればわからない。少し決めつけのようにも見えて、でもこころの気持ちや考えに全く寄り添えてない点を見ると間違っているようにも見えてくる。伊田先生を”知らない”から何も言えないけれど、一つわかるのは、伊田先生に対するこころが自分本位であるということと、それが悪いことでないということ。

人って本当に難しいなって思う。言葉が伝わらないって、現実に実際にあって、私の場合はまず言ってみて無理だとわかったらすぐ見切りつけて諦めちゃうけど、わかってほしい人にわかってもらえない時は本当に辛い。特にそれが自分自身の芯に関わることだったら尚更。だからこそ、こころの母親にすぐ本音を話せない気持ちをすごく身近に感じたし、怖いよなって思う。そしてお話の中で、こころの母親にはこころの言葉が通じたことに嬉しく思った。

 

男子二人の声を聞きたい、と耳が言う(上P.204)

 ↑:ここも過剰に反応してしまう場面。ただ自分の中学のジャージを着た男子生徒が通りかかっただけだけれど、自分に関して噂されるのではないかと心配してしまう。第三者目線でいえば、そしてこころもわかっているように、ありえない。だけれどそれでも怖いのは、過敏になっているからなんだと思った。何か知っているんじゃないか、そして見ものにしているのではないかと錯覚してしまう。(錯覚という言葉はこの場合にあまり合っているとは思えないけど、どんな単語が近いかわからない。)自分にも少し身に覚えのある感じがする。

 

伏線回収と結末前の自分の考察・予想

このセクションはちなみに…くらいなものなので、飛ばしてもらっても大丈夫です!笑

 

ポイントは多分、

  1. かがみの城の目的が何か。
  2. ”オオカミさま”の正体は何か。
  3. 何故、お互いが学校で出会えなかったのか。
  4. 鍵の場所、願いの部屋はどこか。

が主だと思う。

1 に関しては、最後までわからなかった。リオンが残って”オオカミさま”と話した場面でやっと知った。そこまでフォーカスされていなかった謎なので、あんまり気にしてなかったからかもしれない。だけどものすごい驚きがあったわけでもなく、そうか、そうだったのかくらいだった。

2 に関して、’…”オオカミさま”が、まさかそんな、普通の小さな女の子みたいなことを言うとは思わなかった。’(上P.396)とこころが思った時、大人っぽい”オオカミさま”に友達が欲しいとか何か表にできない隠している気持ちがあるんじゃないかと感じ取った。で、なんとなーく予想していたのがジーニータイプのストーリー。何か過去があって、城の番人をしながら、自分が解放されることを願ってくれるのを待っている的な。リオンの姉だと知った時、なるほど、と納得できたので、あまりハズレたことを残念には思わなかった。

3 に関しては、予想通りの展開。勘が働いたきっかけは、喜多嶋先生が紅茶をこころに渡した時、おや?ってなったこと。確証は何もなかったけど、もしかしたら映画「君の名は」的な時間軸のズレがあるんじゃないかって思い始めた。で、段々とヒントが出されていく内に確証に近づいた。早く答えが知りたい!と読書スピードが早まった気がする。ゲームのプロデューサーももしかしたら…って勘づいてたら、苗字出てきて、やった!って思った。

4 に関して、全く気づかなかった。時計に触れられていないことや、ヒントになる童話が七匹の子やぎだということにも。”オオカミさま”が子供たちを”赤ずきんちゃん”と呼んでいることに違和感はあったから、5時まで残って狼の中に入って鍵を見つけるとかなのかな〜くらいに思ってたけど、そもそも物語が違ったんだなって全然気づかなかった。バツ印の意味も何かヒントなんだろうけど、ピンと来なくて、結局結末までたどり着いてしまったという、ね。萌えちゃんが何かヒント持ってそうだなというのは匂わせさせられてたからそうなんだろうなとは思っていたけど、完全に自分からミスリードに持ってかれた。笑

 

 

最後に

文章的にはちゃんと読みやすかったし、読み進めやすい作品だと思う。

だけど、こころと中学生の自分の性格に少し似たようなところがあって、 何度も中学時代を思い出してしまったり、今は大分落ち着いてはいるものの、昔から持つ自分の嫌いな部分が写し出されているように感じたりして、最初の導入あたりから割と後半に差し掛かるまで読み進めるのに時間がかかった。

でももしその嫌いな部分が自分の大半を占めていた中学生の自分が読んだら、どんどん読み進めるかもしれない、味方がいると感じるかもしれないって思った。こころと状況自体は全く違うけれど、隣に寄り添ってくれる支えてくれるような時間を与えてくれていたかもな〜なんて。

逆に、人物描写よりも物語にフォーカスが当たっている時にはスムーズに読めた気がする。下巻P.182からのこころが助けに行く場面からはめちゃくちゃ一瞬だった。

 

 

 

 

 

中学の時に出会っていれば。

 

そう思う。

 

 

 

 

ゆずりんごの蜜

*・゜゚・*:.。..。.:*・'

かがみの孤城 | 辻村 深月 |本 | 通販 | Amazon

*・゜゚・*:.。..。.:*・'

P.S. そいえば、こどもの日か。大人になりきれてない子どもでもない私は何だろう。